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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)919号 判決

控訴人 原告 文鎮南

訴訟代理人 池添勇

被控訴人 被告 池田貞通

訴訟代理人 太田稔 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金一二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和三六年八月二六日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠関係は

控訴代理人において、原判決事実摘示請求原因第二項第三項を次のとおり訂正する。

「二、控訴人は生活の本拠である本件不動産を失つては困るので、訴外浅川文哉弁護士に依頼して競落許可決定に対する抗告や債権者との交渉に当らせていたところ、当時たまたま被控訴人と右浅川弁護士とが懇意の間柄であつたところから、同弁護士は昭和三四年四月一六日頃控訴人に対し「被控訴人に頼んで本件不動産を競落してもらつた。ついては至急一五万円程度の金が必要だから持参せよ。」との電話があつたので、控訴人は急拠右金員を調達し、即日同弁護士に届け、同弁護士から「被控訴人に頼んで競落してもらい第三者への競落を防止した。そしてその間に債権者との間に示談解決しよう。右示談ができなくとも被控訴人に競落してもらつているから、その代金を控訴人が被控訴人に支払つて買戻しの形式をとればよい。ついては被控訴人にその点についての協力の謝礼として右の内金二万五〇〇〇円を渡してもらいたい。また被控訴人は競落の保証金として一二万五〇〇〇円を納付しなければならぬが、この金は本来控訴人のために被控訴人が競落された行為についての金であるから控訴人が支払われたい。控訴人の出金による右一二万五〇〇〇円を被控訴人名義で保証金として納付してもらい事件解決後、右一二万五〇〇〇円は控訴人に返還する。」旨確約したので、控訴人は同日同弁護士に右金一五万円を交付し、同弁護士は控訴人の代理人として翌一七日被控訴人に対し右趣旨で右金員を支払い、被控訴人は右趣旨でこれを受領し、右の内金一二万五〇〇〇円は保証金として被控訴人名義で執行吏役場に納付し、同月二二日控訴人に対し右納付金領収証(甲第三号証)を交付し控訴人に対する右保証金返還の証とした。

三 控訴人は以上の経緯で被控訴人に対し右保証金一二万五〇〇〇円を交付し、被控訴人はこれを受領して右控訴人よりの依頼の趣旨を受諾した。」と陳べ、立証として当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人において、「控訴人主張の競落前に被控訴人に頼んで被控訴人名義で競落して貰つた。旨の主張は否認する。すなわち、被控訴人は昭和三四年四月一七日の競売期日に最高価競買の申出をして保証金一二万五〇〇〇円を自己の金で納付し、これを競落していたが、浅川弁護士は右競落後にこれを知り、被控訴人が同弁護士と知人の間柄である関係上、控訴人のために被控訴人主張のような依頼をなし同月二一日頃被控訴人主張のような趣旨で本件金員を被控訴人に交付したものである。従つて競売期日前の四月一六日には保証金が一二万五〇〇〇円と判明している筈がないところから考えても控訴人の主張が虚構であること明白である。」

と陳べ、立証として当審証人浅川文哉の証言を援用した、ほか原判決摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

理由

一、控訴人主張の不動産(本件不動産)に控訴人の訴外劉芳子に対する貸金債務の担保として抵当権設定がなされていて、これにつき競売手続開始決定がなされたこと、被控訴人が強制執行の立会を業とする者で、右不動産を金一二五万円で競落し、昭和三四年四月一七日競買申出の保証金一二万五〇〇〇円を納付したこと、被控訴人はかねてから弁護士浅川文哉と懇意で控訴人の代理人である同弁護士から懇請されて右競落により取得すべき右不動産の売却を承諾し、右浅川弁護士を通じて控訴人から右保証金相当の金一二万五〇〇〇円と謝礼金二万五〇〇〇円(計一五万円)の交付をうけ、右保証金納付の領収証(甲第三号証)を控訴人に交付したこと、右競売手続はその後控訴人との間に示談が成立し、同年一二月一四日被控訴人同意の下に競売申立が取下げられて終了し、その結果被控訴人はさきに納入した右保証金一二万五〇〇〇円の還付をうけたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、控訴人は右金一二万五〇〇〇円を被控訴人に交付したのは被控訴人が右競買申出の保証金を納付した前日の昭和三四年四月一六日であると主張するけれども、これを肯認する証拠なく、却つて後記四認定のとおり(原判決一〇枚目裏)右は被控訴人が競買保証金を納付した同月一七日以後の同月二二日であると認められる。

三、控訴人は被控訴人に交付した右保証金相当金一二万五〇〇〇円は事件解決後は控訴人に返還を受ける趣旨で交付し、その後右のとおり競売事件は取下により終了し、被控訴人において保証金の還付をうけている以上被控訴人は委託の趣旨からこれを返還すべき義務あり、仮に右返還の約がなかつたとしても、被控訴人との間に売買(買戻)が成立せず、競売事件が取下により終了した以上不当利得金として右金一二万五〇〇〇円の返還義務がある旨主張し、被控訴人は右委託の趣旨を争い、且つ右金員は謝礼金又は利益金として控訴人の代理人たる浅川弁護士より贈与を受けたものである、旨抗弁する。そして控訴人は被控訴人の右抗弁事実を否認し、この点につき、その主張にかかる前訴判決の参加的効力を主張し、前訴判決では前記保証金は、本訴被控訴人が自ら裁判所から還付を受けて受領していること、浅川弁護士は右保証金の最終的決済について控訴人より何らの委任を受けていなかつたことの理由により、控訴人は浅川弁護士に対する前訴で敗訴判決をうけたのであるから、前訴の被告知人たる本件被控訴人は前訴判決理由中の右判断に反する抗弁はなしえない、と主張するので、先ずこの点について検討を加える。

成立に争いのない甲第一〇号証(前訴判決)に弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴人が訴外浅川文哉に対し寄託金返還請求訴訟(大阪地方裁判所昭和三六年(ワ)第一、〇九九号)を提起し、控訴人は本件被控訴人に対し右訴訟の告知をしたが、被控訴人は右訴訟につき当事者のいずれにも参加しなかつたこと、右事件では控訴人が浅川文哉に対し同人との間に成立した寄託契約(むしろ委任契約であろう)に基づき金一二万五〇〇〇円(競買保証金立替金)の返還を求めたが、前訴において右浅川が返還義務を負う趣旨の契約は否定せられて控訴人は敗訴し、該判決は確定したことを各認めることができる。およそ、訴訟告知制度は訴訟の結果について利害関係を有する第三者に補助参加をしてその利益を擁護する機会を与えると共に、他方告知者が敗訴した場合敗訴の責任を第三者に分担させ、敗訴の結果後日告知者と第三者との間に訴訟が起つた場合第三者に敗訴の結果を無視して、前訴の判決の認定判断と相違した主張をすることを許さない利益、すなわち第三者がその訴訟に補助参加したと同じ利益を告知者に享受させるものである。そして訴訟告知は本来右にのべた如く、訴訟の結果について利害関係を有する第三者(補助参加をなしうる第三者)に対してなされるべきものであるが、被告知者が補助参加をなすことをうる第三者であるかどうか(補助参加要件)は被告知者の補助参加につき異議の申立があつた場合又は後日告知者と被告知者との間の訴訟で前の判決の効力が及ぶか否かが問題となつた場合に判断されるのであつて、告知者と被告知者との間に右補助参加要件を欠く場合はたとえ後訴が右両者間に係属しても前訴判決につき参加的効力を生じるものではない。今これを本件についてみるに、なるほど前訴判決は後記認定の如く控訴人主張の寄託契約を否定した上、その判決理由中において前訴当事者のいずれからも主張はなかつたが、その積極否認の事情として、保証金は被控訴人において既に裁判所より還付をうけていること、浅川は被控訴人に支払つた保証金相当金の最終的決済については控訴人より委任をうけていなかつた旨判断している。このような判断が被控訴人に対し前訴判決の参加的効力の及ぶ客観的範囲に属するか否かを検討する前に、そもそも被控訴人は前訴訟の結果につき法律上の利害関係を有していたか否か-被告知者適格、判決の参加的効力の発生要件-を検討しなければならない。よつてこの点について審理をとげるに、成立に争いのない甲第一〇号証によれば、控訴人は前訴において「控訴人が浅川(前訴被告)に対し昭和三四年四月二一日金一二万五〇〇〇円を金二万五〇〇〇円の謝礼の外に競売事件処理の目的で寄託したがその目的を了した。すなわち控訴人はその所有不動産上の抵当債権者劉芳子より競売の申立を受けたので、浅川を通じ被控訴人の手によつて控訴人のため競落して貰うこととし、被控訴人はこれを競落したので、浅川と控訴人間には事件解決の上はこれの返還をうける趣旨でその保証金として金一二万五〇〇〇円を浅川に手交し寄託したところ、競売事件は同年一二月一四日控訴人と債権者との間で示談成立し取下げられたので、右保証金は浅川より控訴人に返還しなければならないものである。」という事実を主張したところ、前訴裁判所は右寄託契約を否定し右契約(寄託よりもむしろ委任であろう。)の内容は控訴人主張の如きものでなく、「競落不動産を控訴人のため確保すべく代金を完納しないよう示談方を浅川に依頼し、その趣旨の下に前記金員を託したもので浅川は翌二二日右金員を被控訴人に支払い競落代金を完納しないよう諒解をとりつけ右委任の目的を終了したのであつて、当初より浅川は右金員について控訴人に返還を約したものでない。そして浅川は右金員の最終的決済につき委任を受けておらず、現実に右保証金の還付を受けた者は被控訴人であるから浅川に返還義務はない。」との判断をした事実を認めることができる。扨て補助参加の要件については必ずしも統一せられた見解が存するわけではないが、参加的効力や訴訟告知との関係において考えるときは、少なくとも前訴において被参加人の敗訴となつた理由のよつて生ずる事実上法律上の判断が、被参加人と参加人間の後訴において直接参加人に法律上の不利益を生ずる虞れがあることを要するものと解するを相当とする。本件についてみるに前訴は専ら控訴人と浅川間の契約に基因する金一二万五〇〇〇円の返還請求であつて、それが、その不成立の故に否定せられても、その理由を支える判断は、控訴人が被控訴人に対し右金員を浅川を通じ後日一定の場合返還を受くべき約の下に交付したと主張し、また仮に右約のなかつた場合は不当利得となると主張する本訴において、前訴被告知人(参加人)たる被控訴人に後日控訴人との間の訴訟で不利益をもたらす虞があるものということはできない。蓋し本件の場合、若し前訴における被告浅川に返還義務が容認せられたならば、論理上同一の金一二万五〇〇〇円につき再び被控訴人にその返還義務が認められない関係にあるにすぎず(そのような関係は未だ補助参加要件を充足するものではない)、前訴における浅川に金一二万五〇〇〇円の返還義務不成立の前提となつた判断は、後訴たる本件において浅川を通じてなされたとする被控訴人の控訴人に対する契約上の返還義務成立の判断を直接当然に導く関係になく、また被控訴人が交付を受けた金一二万五〇〇〇円が法律上の原因を欠くに至るの判断とも直接の関連がなく、従つて前訴の敗訴の理由となつた判断が、後訴において前訴被告知人たる被控訴人に不利を及ぼす関係になく、被控訴人には前訴において補助参加する要件を欠き、従つてまた、前訴判決について参加的効力を受ける関係にないものと断ずるのが相当である。

してみれば、被控訴人は前訴において控訴人を補助するために参加出来る資格を欠いていたものであるから、たとえ前訴において控訴人が被控訴人に対し訴訟告知をしても、右は告知要件を欠くことになり、前訴判決は被控訴人に対し参加的効力を生じる余地がないから、控訴人が前訴判決で敗訴した理由となつた事実について被控訴人は何らの拘束をうけるものでなく、裁判所も又前訴判決に拘束されず、本訴において自由に判断することができるものといわねばならない。控訴人の参加的効力に関する訴訟上の抗弁は理由がない。

四、以下当裁判所が認定するところは左記に附加訂正するほか原判決九枚目裏終より四行目以下一一枚目裏末行までと同一であるからここにこれを引用する。

(イ)  原判決九枚目裏終より三行目「証人浅川文哉」の上に「原審並当審」を加え、「原告本人尋問の結果の一部」を「原審並当審における控訴本人尋問の各結果」と訂正する。その次の「後記」の上に「いずれも」を加える。

(ロ)  同一〇枚目終より五行目「請求異議訴訟の依頼」を「右競売申立事件につき相談」と訂正する。

(ハ)  同一一枚目表終の行「取得した。」の次に「被控訴人はこの取下げた保証金を即日(昭和三四年一二月二四日頃)一先ず浅川文哉事務所に持参したが、同弁護士より確定的にこれを謝礼として受取つた。」を加える。

(ニ)  同一一枚目裏一行目「原告本人」の上「原審並当審証人浅川文哉の各証言、原審における被控訴本人尋問の結果」を加え、同第二行目「部分」の上に「各」を加える。

五、してみれば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 裁判官 井上三郎)

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